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浄瑠璃寺と会津八一

浄瑠璃寺にて

じやうるりのなをなつかしみ
 みゆきふる
  はるのやまべをひとりゆくなり

浄瑠璃の 名を懐かしみ み雪降る 春の山辺を 一人行くなり

※浄瑠璃=薬師瑠璃光如来の浄土。東方世界にある。

かれわたるいけのおもての
 あしのまに
  かげうちひたしくるるたふかな

枯れ渡る 池の面の 葦の間に 影打ち浸し 暮るる塔かな

びしやもんのふりしころもの
 すそのうらに
  くれなひもゆるはうさうげかな

毘沙門の 古りし衣の 裾の裏に 紅燃ゆる 宝相華かな

※宝相華=奈良・平安時代に装飾として用いた唐草模様の一種。

奈良を去る時大泉生へ

ならさかをじやうるりでらに
 こえむひは
  みちのまはににあしあやまちそ

奈良坂を 浄瑠璃寺に 越えん日は 道の真埴に 足過ちそ

※真埴=粘土質の赤い土。

観仏三昧 昭和十四年十月

二十日奈良より歩して山城国浄瑠璃寺にいたる
寺僧はあたかも奈良に買い物に行きしとて在らず
赤きジャケツを着たる少女一人留守をまもりて
たまたま来るハイキングの人々に裏庭の柿をもぎりて売り
吾等のためには九体阿弥陀堂の扉を開けり
予ひとり堂後の縁をめぐれば一基の廃機あり
之を見て歌を詠じて懐を抒ぶ

※この少女は堀辰雄の『浄瑠璃寺の春』にも登場す。今も存命される。

やまでらのみだうのゆかに
 かげろひて
  ふりたるはたよおるひとなしに

山寺の 御堂の床に 陰ろいて 古りたる機よ 織る人無しに

あしびきのやまのみてらの
 いとなみに
  おりけむはたとみるがかなしさ

足引きの 山の御寺の 営みに 織りけむ機と 見るが悲しさ

やまでらのほうしがむすめ
 ひとりゐて
  かきうるにはもいろづきにけり

山寺の 法師が娘 一人居て 柿売る庭も 色づきにけり

みだうなる九ぼんのひざに
 ひとつづつ
  かきたてまつれははのみため

御堂なる 九品の膝に 一つづつ 柿奉れ 母の御為めに

※九品=九品の阿弥陀仏。九体仏ともいい、浄瑠璃寺は別名九体寺ともいう。極楽浄土に往生する者の生前に積んだ功徳に応じて分けた九等の階位。上品中品下品の三品に、それぞれ上生中生下生の別有り。

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引用元
『鹿鳴集』「南京新唱」(明治四十一年八月より大正十三年に至る)より

※注釈は当会による。

関連情報

この作品について

著名な書家であり、奈良をこよなく愛した歌人、秋艸道人会津八一(しゅうそうどうじんあいづやいち)も、浄瑠璃寺を詠んだ短歌をいくつか残しています。

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