2024年11月6日(水)建設候補地の再選定が決定し浄瑠璃寺南が再び候補地の一つに
第66回クリーンセンター建設計画策定委員会が開かれ奈良市クリーンセンターの建設候補地再選定が決定されました。
- (2024年11月11日(月) 午後9時39分20秒 更新)
新聞各紙の報道によると、2024年11月6日午前、仲川市長がクリーンセンター建設計画策定委員会に建設候補地の再選定を諮問しました。浄瑠璃寺南も再選定の可能性がある候補地の一つとされています。策定委員会の中川委員長は年度内に審議を終えたいと述べたとのことです。(奈良新聞・産経新聞)
2017年7月12日、三選を果たした仲川市長が選挙後初の記者会見で、浄瑠璃寺南へ奈良市クリーンセンターを移転する計画を断念すると表明しました。また2019年12月20日には、仲川市長が広域化による新クリーンセンターの建設を目指すと発表しました。そこで私たちは奈良市の方針転換がある程度確実になったと考え、2019年12月ごろから署名活動を休止しています。
浄瑠璃寺南へ奈良市クリーンセンターを移転する計画が断念されたことには、景観を含め浄瑠璃寺の周辺環境に悪影響を与えることや歴史的に重要な中川寺跡の遺構が候補地に含まれることなど、これまで私たちが主張してきた問題点に加えて、奈良市民全体の利便性や奈良市東部地域の生活環境の保全が考慮されたためと考えます。
奈良市の市街地から浄瑠璃寺南の候補地へ向かうには、決して広いとは言えない片側一車線の国道369号と県道33号を通るほかありません。この道は奈良市東部地域から奈良市の市街地へ出ることができる唯一の道路です。通勤のためこの道を利用する奈良市東部住民も多いことから、ゴミを運ぶパッカー車などで特に通勤時間帯に道路が渋滞することが強く懸念されました。しかし国道と県道を四車線に拡幅することは奈良市の権限では不可能で、たとえ可能としても莫大な費用がかかります。
そこで現行のゴミ焼却場(環境清美センター)に中継施設(リレーセンター)を作り、これまで通り一旦その中継施設にゴミを集め、ゴミを夜間に巨大なトラックに詰め替えて浄瑠璃寺南まで運ぶという計画が議論されました。非常にランニングコストがかかり無理のある計画です。
また渋滞による奈良市東部地域の生活環境悪化が懸念されているのですから、地域にとって魅力的な付属施設を作ることもできません。多くの人に車で集まられては困るからです。
浄瑠璃寺南の候補地は人口が多い奈良市西部からのアクセスが悪いことも問題です。ゴミを持ち込む場合、恒常的に混雑する観光地近くを抜けて行かなければなりません。
さらに言えば、浄瑠璃寺南の候補地の地下には奈良市の水道に使う水を須川ダムから緑ヶ丘浄水場まで流している導水トンネルがあります。何らかの原因でクリーンセンターから汚水が地下に滲み出てしまった場合、奈良市の水道水が汚染される危険もあるのです。
こうした条件の悪さから、浄瑠璃寺南でのクリーンセンター建設計画は最後まで具体化には至りませんでした。事態を打開し問題解決を早めるため仲川市長は浄瑠璃寺南への移転を断念せざるをえなかったものと私たちは受けとめています。
2017年7月12日に仲川市長が浄瑠璃寺南へのクリーンセンター移転を断念した際には、当会とともに署名を呼び掛けてくださった呼びかけ人・賛同人の皆さまから多くのコメントをいただきました。この記事の最後に皆様のコメントを再掲いたします。
奈良市クリーンセンター計画策定委員会の委員の皆さまにおかれては、全国から寄せられた署名に込められた願いと識者の皆さまのご懸念、仲川市長が浄瑠璃寺南への移転を断念した経緯とその根拠を尊重していただき、くれぐれも浄瑠璃寺南を最終候補地として再選定することがないようお願いしたいと思います。
当会としては浄瑠璃寺南に奈良市クリーンセンターが移転する可能性が残る限り、署名活動を継続いたします。今後必要となれば再び広くお力添えをお願いすることもあるかと思います。今後ともどうか奈良市クリーンセンターの動向をご注視ください。
市長が浄瑠璃寺南への移転を断念した際、呼びかけ人・賛同人のみなさまから寄せられたコメント
※お肩書きは2017年7月当時のものです。
添田 隆昭 師(高野山真言宗宗務総長)
仲川市長様の英断に篤く敬意を表します。地元を始め全国の皆様の叡智の賜物と存じます。
平 雅行 先生(仏教史学会会長 大阪大学名誉教授)
焼却場の建設予定地である浄瑠璃寺南の地域は、鎌倉仏教の先駆者ともいうべき中川寺実範上人のゆかりの地でもあり、歴史的遺産としての学術的価値が非常に大きいと考えます。奈良市が速やかに、現クリーンセンター移転計画の撤回を正式決定するように希望いたします。
細川 涼一 先生(京都橘大学文学部教授 日本中世史)
浄瑠璃寺や中川寺跡周辺はお寺の歴史的景観と周囲の自然が一体になってこそ意味のあるものです。ここにゴミ焼却場を建設する現計画の断念を市長が表明されたことはありがたく、是非とも現計画の撤回を奈良市として正式に決定されるよう期待いたします。
箕輪 顕量 先生(東京大学大学院教授 仏教学・東アジア仏教)
自然や文化は一度、破戒されてしまうと、もとに戻りません。次の世代に伝えたい大事なものが守られるという話を聞き、大変嬉しく思います。改めることができるというのも、大事なことの一つだと思います。
安本 義正 先生(京都文教短期大学学長)
歴史的も大変貴重な文化遺跡を含む環境を破壊するようなことは決してあってはなりません。奈良市長のお考えのように、是非とも建設計画を撤回していただくようお願いいたします。
関川 鶴祐 師(臨済宗僧侶 薩摩琵琶)
養老孟司氏の言葉に「不幸は文明から、幸せは自然からくる」というものがあります。地震、津波、豪雨そして原発…。今、私達は自然災害の脅威と文明のありかたが厳しく問われている時代を迎えております。失ってはならない自然そして文化の共生の道を、良識ある行政を切にお願い申し上げます。
山本 勉 先生(清泉女子大学教授 東京国立博物館名誉館員 文化審議会文化財分科会第一専門調査会委員)
浄瑠璃寺につながる奈良市北郊地域は、平安時代後期から鎌倉時代にかけての仏教文化の展開を解明するための多くのそして大きな課題を秘めた重要地域です。地域の環境が守られ、関連諸分野の調査研究が展開されることを期待しています。